21gのとしょかん

ながいながい遺書

ウェヌスとルキフェル

 あなたがグラスを輝く砂金で満たしている間、私は自分のそれにピンポン球を詰めている。ふと手元より目を上げたあなたは「そんなスカスカじゃあ、ふうっと吹いたら飛んでっちゃうよ」なんて言いながら、今日もいと高きより私のグラスに異物を混入させようとする。うるさいよ、と私はハンドバッグからベレッタを取り出して、腹癒せにあなたのグラスへ向けてやる。吐き出された鉛の塊は、林檎に齧り付くような音をたてながらガラス製のそれを破壊して、慌てたあなたは排尿されるように流れ出る黄金へ両手を差し出す。焦るその姿があまりに滑稽で、頭へも鉛を飛ばそうかと悩んでいれば、勝手に指が収縮し、桃色のナメクジのような脳髄が飛び散った。砂金を巻き込みながら広がりゆく赤い海に、あなたのことやっぱり好きだったのかななんて思ったりしてみるけれど、でもナメクジは嫌いだし、ナメクジが頭に詰まったあなたも気持ち悪いし、それに、買ったばかりのヘイディースのヒールが汚れちゃったし。

  金の浮く血だまりは始ったばかりの星空に似ていて、あなたと去年訪れたプラネタリウムを思い出させる。真っ黒なパーカーと、りんごジュースの吐息。『金星は美と愛の女神より名前を取りVxxxxと呼ばれます。』あの時蛇のように侵入してきた、指の柔らかな暖かさ。『ヒエロニムスは明けの明星をLxxxxxと呼びました。』あなたはよくその指で肩胛骨を無神経に撫でてきた。私のマイケルになるつもりもないくせに。肩胛骨が翼の名残ならば、ここはきっと冥府なのだろう。それとも私はいずれ羽化して、6対の翼がこの背の皮を破るのだろうか。動かぬ死体へ銃を向けるも、弾丸は外れて小さな飛沫があげるだけ。

 舌打ちして火を点けたタバコは異様に甘く、吐き出した白は信じてもいない霊魂を連想させながら消えてゆく。ヒールを濡らす体液は、枯れた薔薇の色。あなたの死体は動かないゾンビで、再度撃ち殺すこともできない。ナメクジに似た中枢神経の断片を踏みながら、私はピンポン球を詰める作業を再開するが、強く吐きすぎた溜め息でグラスはテーブルから落ち、金粉の浮く血に砕けて散った。