21gのとしょかん

ながいながい遺書

デスソース健康法を真面目に考える (1)

Twitterでよく言ってる通り、胃が弱いくせに辛い物が大好きなのですけども、今日もお気に入りのデスソースを朝からかけて食べてたんだよね。それで、冗談で「毎日デスソースを食べると(略)鬱に効果があります」とかツイートしたんだけど、ふと、これまじでありそう、と思って。んで調べたところ、ほんとにありそうだったので、ざっとどれくらいの唐辛子ソースを食べたら「効果」があるのか計算してみた結果を以下に。

長いので2回にわけます。今回は、根拠となる論文の紹介。

デスソース健康法を真面目に考える(2)

 

 

まず概要だけ、冒頭にざっと書きます。

概要

唐辛子の「辛み成分」であるカプサイシンはTRPV1に作用するが、TRPV1は新たな抗鬱剤のターゲット候補である。マウスおよびラットにカプサイシンを腹腔内投与した実験の結果から、スコヴィル値X [SHU]のソースを『(体重) * 1500/X  [mL]』あるいは『(体重) * 6000 [滴/kg]』摂取すると、抗鬱効果がある、かもしれない(ただしソースの比重を1.1 [g/mL]、1滴を0.25 [mL]として)。また、抗鬱剤カプサイシン同時摂取で、抗鬱剤の効果が高まる可能性が示唆される実験結果もあることから、日常的に辛いものを食べることで減薬を期待できるかもしれない。

*後にも書くけど、ザル計算だしデータ不足なところは勝手に仮定してるし問題点もあるので、摂取は自己責任で

 

  

簡単な用語説明

[飛ばしても大丈夫よ]

スコヴィル値(Scoville Heat Unit)

「(唐辛子の)辛さ」を表す単位。たとえばある辛さの液体が、砂糖水で10倍に薄めると辛さを感じられなくなるとき、10 [SHU]と表す(Scoville, 1912)。この定義から、よく「スコヴィル値が2倍だから2倍辛い」なんて表記がおかしいってこともわかるよ(詳しくはフェヒナーの法則)。なお、現在ではHPLCでカプシノイド含有量を直接測定し、得られた純カプシノイド量からスコヴィル値に変換することもある、こっちの方がヒトの感覚に頼らない分正確だし効率いい(Collins et al., 1995 [cited in Guzmán and Bosland, 2017])。カプシノイドはカプサイシン等の、唐辛子の「辛み成分」。SHUは原則カプシノイドによる「辛み」の測定にしか用いないです。

 

 Forced Swim Test (FST; 強制水泳試験)

名前の通り、強制的に泳がせる実験。基本は「抑鬱」状態の動物を泳がせて、「諦める」までの行動量や水泳時間などから無気力の程度をはかるために使う*。その場合普通2回泳がせるんだけど、一回目は「鬱様状態の動物の作製」、二回目は「無気力の程度をはかる実験」。ほかの方法で鬱状態を作って二回目だけしかしないときも一応FSTっていう。以後便宜上、一回目のFSTとか二回目のFSTって言うけど、本当は変な言い方(両方併せてFSTって言う方が圧倒的に多い気がする)。

一回目:実験動物(ラットとか)を逃げられないようにして水槽に浮かせると、初めは逃げようともがくがやがて動かなくなる(不動状態)。これを「絶望」や「抑鬱」の兆候とする。通称『絶望ラット』。

二回目:翌日、再度水槽に浮かせ、不動状態が続く秒数を測定する。薬剤を投与し、二度目の強制水泳での不動状態が短い場合、投与薬物に抗鬱作用があると見なせる**(Porsolt et al,1977)。なお、この実験ちょっと問題があるのだけども、それは後述します。動物倫理面でたまに叩かれたりする。

*「無気力の程度」以外にも、むりやり運動させるためとかに強制水泳させるのは見たことある、あれも多分FSTっていうはず。 

**正確には、ちょっと微妙な表現かも。「みなせる可能性がある」くらいの方が正確か。

 

ラット・マウス

ラットはドブネズミのこと、マウス(ハツカネズミ)よりでかい。マウスの方がかわいい。あと、マウスのなかにもいろんな種類がいるんだけど、ICRってやつが白くて(アルビノ)おとなしくてかわいい。かわいい。あと、ラットはくすぐると笑うけど、マウスは笑わないらしい。「ラットは大きいマウスではないんです」ってこの話教えてくれた先生嘆いてた。かわいい。

 

mg/kg

単位の通り。例えば「マウスに対して2mg/kgカプサイシンを投与」とあったら、「マウス体重1kgに対して2mgにあたる量のカプサイシンを与えた」ってこと。マウスの体重30gとしたら、この例の場合30g * 2mg/kg = 0.06mg (=60ug)投与してることになる。

 

腹腔内投与(i.p.)

おなかの皮膚の下、内臓の外(腹腔)に薬物を注射すること。口から入れるのは経口投与(p.o.; per oral [oralがつくから覚えやすい])。めんどくさいので図とか省くし、効き方とか吸収の違いは雑にまとめるけど、i.p.の方がp.o.よりも少ない薬量で効くし、効きも速い。ただ、腹腔内投与では効くけど経口投与では効かない薬とかもある。ちなみに腹腔内投与はネズミのおなかに注射で入れるんだけど、これ下手な人がやると内臓刺しちゃって「失敗」することある(どうなるかは。。察して)。

 

 

ここから本題

以下、断りのない限りReyes-Mendez et al. (2018)をベースに説明をしていきます。簡単に言えばFSTで鬱様状態にしたラットにカプサイシンを投与したところ、抗鬱作用が見られたようです。

背景

今の多くの抗鬱剤セロトニンだったりノルアドレナリンとかの量を増やす方向に作用するものが多いけど、Rosenblat (2015)によれば、抑鬱患者の約1/3でこのタイプのものが効かない。カプサイシンはこれら経路とは無関係のTRPV1というところに作用するので、もしかしたら新しい抗鬱剤の発見につながるかもしれない!

すでに、TRPV1チャネルは抑鬱に関係があるという報告もあったり(Madasu et al, 2015)。また、ニコチンを皮下投与したり閉じ込めたりして鬱様状態にしたマウス(ラットでは無く)にカプサイシンを投与すると回復する(Hayase, 2011)という結果も報告されてるみたい。

どうでもいいけど、「辛み(=痛み)」を感じるのはTRPV1にカプサイシンが作用するからなんだけど、肛門付近にはTRPV1が多いらしい、だから辛いもの食べるとお尻痛くなるらしい。

 

 

マウスを用いた類似先行研究の結果

さっきのHayase (2011)について少し。

まとめちゃうと、この項は鬱様マウスにカプサイシン投与すると、抑鬱状態の改善がみられる、って言いたいだけ。

 

図を転載するのOKなんだろうけど少し気が引けるし、どうせ無料公開されてるのでリンクを貼ります。Fig1(a)見て、見なくてもいいけど。

Differential effects of TRPV1 receptor ligands against nicotine-induced depression-like behaviors

 

鬱様状態にしたマウス、およびそれらにカプサイシンを投与させたマウスを、強制水泳試験してる実験結果です。左が「動かなくなるまでの水泳時間」、右が「10分の間で泳ごうと動いた回数(行動量)」。なお、この場合の強制水泳は、さっきの「用語説明」で書いた二回目の実験だけ。すでにニコチン投与or拘束で鬱様状態にしてるので、わざわざ一回目の強制水泳をさせて鬱にする必要ない。

 

ニコチン投与(NC)もしくは拘束(IM)した後に泳がすと、何もしてないマウス(control)を泳がしたときに比べて、早く泳ぐのをあきらめることから、とりあえずNC/IMで確かに鬱様状態になってる、このときNCでもIMでも不動状態になるまでの時間がほぼ一緒なの面白い気がする。この鬱様状態のマウスにカプサイシン(CP)を腹腔内投与すると、NC/IMいずれの場合でも改善されることから、CPの抗鬱作用が示唆される。

同じような実験を、今度はマウスを尻尾から吊り下げて(Tail Suspension Test;こうすると腹筋するみたいにクイって動く)、不動時間(さっきは不動までの時間)を調べてます(Fig2)。CP0.1mg/kgでもかなり改善がみられる。

あと、追加で、健常マウスにCP与えても特に過剰に行動することはなく、controlとほぼ一緒だったのは個人的に面白いです。

 

続きも面白いけど、きりが無いので。

 

この論文、後述のReyes-Mendez et al. (2018)が以下のように「0.1mg/kgで天井効果出る」って言ってるんですけど、どこに書いてるか見つけられなかった。。どこか書いてる??グラフだとまだ1mg/kg~2.5mg/kgで効果が増加する傾向みられるような気がするんだけど。。うちが見つけられなかっただけかあるいはSupplimentalにあるんだと信じて、まあ次行きます。誰か教えてくれめんす。

Previously, only one study had shown that a small dose of systemic Cap (0.1 mg/kg, i.p.) prevents the immobility of mice in the FST and the tail suspension test (TST) (Hayase, 2011). This author reported that larger doses (1 or 2.5 mg/kg, i.p.) had no further effect, suggesting that small doses of peripherally applied Cap produce a maximal antidepressant-like effect.

 

 

ラットを用いた実験の結果

ここからがReyes-Mendez et al. (2018)の本論。

先に重要なとこだけまとめちゃうと、FSTで鬱様状態にしたラットにカプサイシンを投与したところ、抗鬱作用が見られ、その効果は0.05mg/kgたようです。

Reyes-Mendez et al. (2018)は有料会員じゃないと見れないので大学その他で見れる人はそこで、観れない人はまあSci-Hubで違法ダウンロードでもして←ダメです

まだmanuscriptなので今度こそ画像は載せたくない。ScienceDirectのリンク貼っときます。一応アブストと簡単な結果はみれまする。

Capsaicin produces antidepressant-like effects in the forced swimming test and enhances the response of a sub-effective dose of amitriptyline in rats - ScienceDirect

 

今回の実験動物はラット。まず、FSTの一回目で抑鬱状態のラットを作製。これにカプサイシン(Cap; 論文によって略し方変わるの仕方ないんだけど統一して欲しすぎる)を1*10e-6mg/kg, 0.001mg/kg, 0.05mg/kg, 0.1mg/kg, 0.25mg/kg投与して、翌日二回目のFST。(10^2とか毎回書くのめんどいので1e2でゆるして)

泳ぐのを諦めるまでにかかった時間を計った結果が上記リンク先の図にある、右側のグラフ。0.001~0.01mg/kgで効果が出始め、投与量とともに効果は増加、ただし0.05mg/kg以上で横ばい。ちなみに、論文の方にある図なんですけど(Fig 3)、この頭打ちになったところで大体不動時間が未投与に対して20%ほど減少してます。

 

同じグラフの一番右にあるAmi12は三環系抗鬱剤の「アミトリプチリン」を、抗鬱効果が出る最大量の12 mg/kg投与した結果。Amiは「セロトニンだとかノルアドレナリンの量を増やす方向に作用する」タイプのものなので、Capとは効く理由が違う。グラフ見たらめっちゃ効き方差があるようにも見えるけど、本文では「Amiのほうが効くけど、めっちゃよく効くわけじゃないぽん」って書いてるぽよよ。

ちなみにCapは投与のためにエタノールに溶かしてたらしいんだけど、エタノールの影響も無いこと調べてました。

 

このあとしばらく、低用量過ぎて効かない量(閾値未満)のAmiとCapを一緒に投与すると、抗鬱効果が高まることが書かれてます。さっきのだとCap単体での投与では不動時間は20%ほどしか改善されていなかったのに対して、低用量のAmiを追加すると40%ほど改善(Ami 12mg/kgと同程度)。減薬へつながるかもしれない結果だし、こっちが割とこの論文のメインの話ではあるし、ふつうにめちゃくちゃ面白いんだけど、まあ省略。ただ、先行研究でSSRI+CapでSSRIの効果が強まった、という結果がでてることは触れておきます(Manna and Umathe, 2012)。

 

と言うわけで抗鬱作用はなんとなく示されたんだけど、一方でCapの抗不安作用・不安促進作用は、すくなくともこの0.001mg/kgおよび0.5mg/kgでは観察されず。

あと、前後逆になっちゃったけど、Cap投与で「筋肉が疲れにくくなる」「収縮力が強くなる」とかも観察されずでした(ここらへんおまけだしあんまり今回の話と関係ないので流し見した)。

 

今回はここまで!後半は、じゃあ実際にどれくらい摂取したら抗鬱効果がでるのか、およびこの結果をヒトに応用するときの問題点・課題を書きます。

 

 

ここまでのまとめ

カプサイシンはもしかしたら新しい抗鬱剤の発見につながるかもしれない!というわけで行われた実験の結果:

鬱様状態の動物で、抗鬱作用を最もよく示すカプサイシンの最低腹腔内投与量

マウス:0.1mg/kg (Hayase, 2011[Reyes-Mendez et al. の解釈で])

ラット:0.05mg/kg (Reyes-Mendez et al., 2018)

なお、これ以上投与しても抗鬱効果は強まることは無かった。

 

また、三環系抗鬱剤アミトリプチリンとカプサイシンの同時摂取でアミトリプチリンの抗鬱効果が増強された(Reyes-Mendez et al., 2018)。先行研究(Manna and Umathe, 2012)ではSRI+カプサイシンSSRIの効果が強まった、という結果もでてる!

全引用文献は「デスソース健康法を真面目に考える (2)」にまとめました。

21g-library.hateblo.jp