21gのとしょかん

ながいながい遺書

大好きな、大好きな、二階堂奥歯へ (『八本脚の蝶』の感想に代えて)

僕はあなたを直接知ることはできなかったけれど、『八本脚の蝶』の一行目を読んだとき僕の中に「二階堂奥歯」は生まれ、最終行にて死んだ。 だから、これは僕の中にいた「二階堂奥歯」と、彼女と共に自殺した僕自身の一部に対する追憶の文章なのだと思う。泣きながらこんなものを書いてしまう僕を、あなたはラカンを引用しながら笑うのだろうか。ねえ、教えてほしいよ。

 

沢山の本は有機的に絡みあい、本の集合体として私を変えた。変えられた私はあらたな選択眼であらたな本を読む。かつて読んだ本はあらたな文脈に基づき読み返される。そうして作られた私と本との結びつき。本によって作られた世界観で私の世界は変わり、私の世界観によって本は違うものとして読みとられる。

世界のどこかに、すべてが書かれた一冊の本があるという夢を持つ本好きは多いはずだ。
ある意味我々はその本を既に手にしている。今手に取った一冊がその一頁、その一つの脚注であるような、膨大な集合体としての本を。

(二階堂奥歯2002年12月23日(月)その3」『八本脚の蝶』、一部)

 

八本脚の蝶』を知ったのは、あなたがこの世界からいなくなってずいぶん経ってから。

何年か前に「三大メンヘラ日記」なんて雑なくくりで高野悦子二十歳の原点』と南条あや『卒業するまで死にません』に並べて挙げられているのを見て、すでに他の二冊は読んでいたから、特に前者には強く影響を受けていたから、一冊の本になったあなたの物語を購入した。

精神的に追い詰められていた僕は、あなたやあなたの周りの人たちの言葉に頷いたり反感を覚えたりしながら、救われたりした。

そのときの『八本脚の蝶』は知り合いに貸したまま返してもらっていなくって、その後もふとしたときにネット上のあなたに会いに行ってたのだけども、やっぱり本として手元に置いていたいから、つい先日、買い直した。

買い直して、久しぶりに2001年6月13日からゆっくり読んだよ。

笑いながら。泣きながら。

ああ、この小説面白いよね、なんて呟きながら。

付箋もいっぱい貼って、書き込みもいっぱいして。

今日も本を開いて、気づいたら5時間経っていた。

 

 

ねえ、聞いて?

あなたが15年間も「そちら側」で過ごしているうちに、「こっち」では『Garden of Earthly Delights』のフィギュアがでてるよ、この前美術館で売っているのを見つけた。

残念ながらぬいぐるみでは無かったし、全種並べるにはちょっと高かったけどね。

アスタルテ書房では、明日からベルメール展をするよ。

Dead Can Danceは少し前に再結成して、アルバム出した。

そういえば、『氷と炎の歌』シリーズがドラマ化されて海外で超人気なんだよ、びっくりしない?

たまに、あなたならTwitterをどう使うのだろうか、と考える。

馬鹿にするのかな、それとも案外気に入るのだろうか。

電子書籍や「漫画村」についても、あなたの意見を聞きたかった。

あなたが2018年の世界に何を感じるか、聞きたかったよ。

 

わかってる。

死んでほしくなかった、もっとこの世界にいてほしかった、なんて言わない。

言えない。

そもそも僕はあなたが表現した「二階堂奥歯」を表面的になぞり、都合のいいようにそれを曲解していくことしかできないわけだから、あの日の選択を理解して賛否するなんて、できるわけが無い。

だから、代わりに、もうあなたがあらゆる恐怖から逃れられたということを、信じてなんかいない神に向かって祈ろう。

そして、やっぱり信じてなんかいない「あの世」で、いつか一緒にバベルの図書館へ行ける日がくることを願おう。

その日まで、僕は僕の「二階堂奥歯」を再生し続けよう。

「この本、もうあと読みたくないよ。博士はきっと最後に死んでしまうんだもん」
「わたしを失いたくないか? 泣かせるね」
「最後に死ぬんでしょう、ねえ? あなたは火のなかで焼け死んで、ランサム船長はタラーを残して行ってしまうんだ」
デス博士は微笑する。「だけど、また本を最初から読みはじめれば、みんな帰ってくるんだよ。ゴロも、獣人も」

ジーン・ウルフ「デス博士の島その他の物語」『20世紀SF 4 1970年代』河出文庫、「2001年6月26日(火)」より二次引用) 

表紙を開きながら「読みたいのは続きなのに」なんて、呟かないでいよう。

本当は、あるかないかあやふやな「あの世」なんかじゃなくて、多分それよりは確実に存在する「こちら側」でお話ししたかったなんて、思わないでいよう。

 

 

あともう少ししたら、あなたがFoeminaを受け取った日の年齢に僕もなる。

そのまま、朝が来ないことを祈っているうちに僕は26歳の誕生日も41歳の誕生日も迎えてしまうのだろう。

僕はあなたよりずっとずっと自殺が下手な人間だから、したくもない長生きをきっとしてしまうのだろう。

だから、仕方ないので、僕はその死にきれずにいる時間で僕の解くべき謎を、僕の語るべき物語を、探しながら歩いて行くことにするよ。

あなたに、せめてあなたのイミテーションになりたいけれど、きっとなれないのだから、代わりに「僕」の形をした人間のふりをする人形のふりを頑張ることにするよ。

鼻を何メートルも伸ばしながら、いつか妖精が僕を人間にしてくれるのだと信じ続けることにするよ。

 

 

二階堂奥歯、たぶん僕はあなたに、あなたの物語に、恋に近い感情を抱いているのだと思う。

だから、だから、どうか、あなたの物語をまもる者の一人でいさせてください。

二階堂奥歯」ではなく二階堂奥歯としてのあなたと、さらには佐々木絢子としてのあなたと出会えるその日まで、そしてきっとその先までも、ずっとずっと大好きでいることを、どうか許してください。

 

 

 

もしそこから星空が見えるのならば、それがきっときれいでありますように。

ーしぃ

 

二階堂奥歯 八本脚の蝶