21gのとしょかん

ながいながい遺書

宇宙人に誘拐された話1、或いはオーストラリアにいた頃について

小さいころ、僕は宇宙人に誘拐された。

幼稚園の卒園式直前の話。周りが「○○小学校に行くんだ!」なんて言う中、突然空から真っ黒な光が差してきて、ぴょこんと飛び出してきたぎんぎらぎんに光るおじさんが僕に告げた:

「君は来月からストラ星に行くのです。」

僕はもちろん「行きたくない」と答えた。みんなと同じ小学校に行って、今みたいにポケモンごっこをし続けるつもりだったから。仲が良くて、ちょっぴり大好きだったみづきちゃんとも、卒園してもずっと一緒に遊ぼうね、って約束してたから。それに、ストラ星なんてどこにあるのかもよくわからなかったし、そもそも聞いたことすらなかったし。

銀色の肌をしたおじさんは、ちょっと困った顔をすると、

「それでも、君はストラ星に行くのです。」

「いやだ。」

「いやでも行くのです。君はストラ星人になるのです。」

そう答えるとおじさんも、黒い光も、跡形も無く消えた。なんだかよくわからなかったから、僕はブランコに乗っていたみづきちゃんに相談した。みづきちゃんは、「いいなあ」とだけ言い、ブランコから降りると、どこかへ走り去った。

 

一か月後、友達たちがそれぞれ小学生になる中、僕だけは遠い遠い銀河にあるストラ星へと誘拐された。

 

ストラ星には、僕より前に地球から誘拐された子供たちが数人いた。中にはストラ星で生まれた人たちもいた。同じ囚われの身なのに、なにかとストラ星に詳しいと得意がる彼らのことは、正直あまり好きにはなれなかった。彼らもまた、新入り故に(良い意味でも悪い意味でも)注目されがちな僕が好きでは無かったみたいだけれど。しかし、地球語が通じる以上、施設では一緒にいることも少なくなかった。

ストラ星人たちは、僕が使う地球語を聞き、まねて遊んだ。大抵はその奇異な発音を楽しむ程度だったが、中には新しい単語を教えてもらおうと僕に話しかける者もいた。適当に地球語で話すと、彼らは喜び、へんてこな黒いジャムを食べさせてきた。毎回「おいしくない」とそれを吐き出す僕を、「これだから地球人は」と笑っていた。

また、彼らからすれば、地球語と火星語とは似ているらしく、僕に火星語をしゃべらせようとすることもしばしばあった。最初のうちは火星人ではないと訂正していたが、そのうち面倒になり、たまにでたらめな火星語を教えた。すると彼らは手を叩いて笑い、やはりあの黒ジャムを食べさせてきては吐き出す僕を見て楽しんだ。あのジャムは肌が銀色でないとおいしく感じないらしい。

ストラ星人の中には「地球人は家具にするべき」と主張する過激派集団もいた。曰く、肌の色が人より木に近い。ストラ語がしゃべれないのも木と一緒だ、故に木と同様、ベッドに加工するべきだと。過激派たちは僕たちを見つけるたびに、「ベッドにするぞー」と叫びながら追いかけてきた。もちろん大半のストラ星人は過激派たちの主張に反対していた。曰く、木で作ったベッドの方が柔らかいし安い以上、それで十分だ、と。

優しいストラ星人もいた。彼らの中には追いかけられる僕らを過激派たちから守ってくれるばかりでなく、ジュースとお菓子をくれ、ストラ語を教えてくれる人もいた。ジュースはあの黒いジャムの味がしたのだが、優しくしてくれるだけでもありがたかったので、僕は吐きそうになりながらもそれを飲んでいた。

正直、当時のことはこれ以上覚えていない。ただ単に幼かっただけかもしれないが、もしかするとあのジャムの副作用なのかもしれない。

 

誘拐されて一年後、地球人とストラ星人とが正式にコンタクトした。星間関係正常化ということで、僕たちは地球に帰る権利が与えられた。噂によれば、地球にも、何人かストラ星人が誘拐されていたらしい。

知りあいの地球人たちの殆どは地球へと帰っていた。一部はストラ星人として生きることを決め、星に残ることにした。僕のところにもストラ星政府から、白いスーツの役人がやって来たが、「君はまだ地球に帰られない」とだけ告げられた。抗議する僕に、

「地球行きの船はもういっぱいなのです。だから君はもう少しストラ星人として生きなきゃいけないのです」

「僕の肌は銀色じゃないし、ストラ語もしゃべれないし、あの黒いジャムも好きじゃ無い、だから僕はストラ星人になれない。僕は地球人。だから地球に帰らなきゃいけない。」

役人はちょっと困った顔をして、

「でも、あなたはまだ地球へは帰られないのです。」

そう答えると、役人は空飛ぶクラゲにまたがった。そして、

「もし、ストラ星人にならないのなら、ジラン星人になるしかありません。そういうルールなのです。ジラン星への船は空いています。予約を取っておきます。」

と告げると、彼は帰っていった。僕は別にジラン星なんて行きたくなかったが、次の日再び現れた白いスーツの役人に段ボールに入れられ、そのままジラン星へと送られた。

 

宇宙人に誘拐された話2、或いはニュージーランドにいた頃について