21gのとしょかん

ながいながい遺書

(dis)connected

  キャパシタみたいな代替可能品になんてなるつもりはない、そんなことを叫んでいるうちに、私は廃材として捨てられていた。数年前の知り合いがセントラル・コンピュータのCPUの一部になったとかマザーの椅子を制御してるとか、そんな話を今日も錆びつきながら聞いている。

 

  21世紀最後の冬を迎えたというのに、ヒトは未だに地球の囚人で、相変わらず失業率は過去最低のまま。eBrainのヴァージョン・ナンバーで競い合うサロンのおばさま達は、今日も「嫌な世の中ね」なんて笑いながら一杯eドルの天然コーヒーを飲んでいる。窓の外から眺める私。足下には濡れた灰がぐちゃぐちゃと広がり、そこへ映り込む頭上の大ビルボードには、モデル名以外先行品と変わらぬ「新型」眼球の宣伝。「愛」も「I」もお金では買えないけれど、最新型のeyeは2ffドルで買えるそうです。ため息とともになる警告音、バッテリーが切れてただの錘と化した左腕に舌打ちをする。こいつもそろそろ買い換えなければいけないが、仕事を探す気にもなれない。

  肩にのった灰を払いながら箱のような自室へ戻れば、送電波が弱いのか、左腕のバッテリーマークが充電中/バッテリー切れの二重状態を示す。無線送電器をリブートするのも気怠いので、床に落ちている絡まったままのピンク色のケーブルを手首に挿すも、それが元恋人の忘れ物であることを思い出して本日fff回目の舌打ちをする。視界が霞むのはレンズのヒビかただの汚れか、私の廉価モデルに涙分泌機能は無いはずなので。

  横になりワイヤードに接続すれば、平日の午前中だからかいつもの広場にユーザーは少ない。「つまんねーの」なんて呟きながら各種サービスを開いては閉じる。「ポスト・マテリアル」なんて言葉すら死語となったけれど、殆どの有意義なヴァーチャル・アクティビティが有料であることは依然として事実である以上、結局マテリアルにおいて貧しきはワイヤード内でも何かを持つことはない。メッセージを受信するがただのスパムで、そこらへんも恐らく前世紀と変わらないんだろう、その時代にワイヤードがあったのかは知らないけれど。

  身体の殆どをワイヤードと常時会話するマシンに置き換えたのに、脳だけはいつも孤独な欠陥品。監獄のようなこの狭い部屋だろうとアインシュタインに囚われぬヴァーチャル空間に逃げることは出来るし、pir8day.comに接続すれば絶品グルメの味から最新ゲームまでなんでも脱法ダウンロードはできるけれど、それらはみな一過性の安寧に過ぎない。マテリアルの姿を知らぬ同士で性行為に耽り、その快楽を共有することだって簡単なのに、ルーターの不調一つで同じく簡単にdisconnectされてしまう。断裂された連続体は、アクアリウムの派手なLEDに照らされ、目的もなく舞いては死ぬ。古いキャパシタは人知れず交換され捨てられゆく。それが怖いと泣き喚いた私は、加工すらされぬまま道端に錆び果てる。そこに「意味」などないのだし、「意味」を求めるほうが愚かなのろう。

  異国のリアルタイム・ヴィデオを開きながら、先日脱法ダウンロードした「ハイボール」の合成クオリアを再生する。マテリアルでそれを飲む場合と同じ電気刺激を脳は受けているのだし、それを疑う気持ちは無いはずなのに、どこからともなく虚しさがこみ上げてくる。またメッセージが届いた。スパムだろうと思えど、珍しく、今度は親からのようだ。「仕事は見つかりましたか?」という題だけをみて、開かぬまま「既読」通知を返送する。目の前に広がるどこか遠くの街は、見知らぬ人で鬱陶しいほどに明るい。彼らひとりひとりにも家族や恋人、友人がいるのだろうか。このカメラの前に立つまで、何年も何十年も他人の吐いた空気を吸って生きてきたのだろうか。全てセントラル・コンピュータのプログラムの産物なのだと思うほうが、理にかなっているようにすら思える。ハイボールは不味く、再現されたアルコールの効果にただ寂しさを募らす。

  マテリアルへと視点を変える。灰色の独房は冷たく、くしゅん、とくしゃみをすればその音が反響する。左腕は相変わらず省電力モードのままで、自らを慰めることにも使えない。何かをしないと発狂しそうで、勿論狂う前にはセイフティが発動するのはわかっているのだけれど、私はきっと一生開かぬだろうポルノ・プログラムをインストールすることにした。

ウェヌスとルキフェル

 あなたがグラスを輝く砂金で満たしている間、私は自分のそれにピンポン球を詰めている。ふと手元より目を上げたあなたは「そんなスカスカじゃあ、ふうっと吹いたら飛んでっちゃうよ」なんて言いながら、今日もいと高きより私のグラスに異物を混入させようとする。うるさいよ、と私はハンドバッグからベレッタを取り出して、腹癒せにあなたのグラスへ向けてやる。吐き出された鉛の塊は、林檎に齧り付くような音をたてながらガラス製のそれを破壊して、慌てたあなたは排尿されるように流れ出る黄金へ両手を差し出す。焦るその姿があまりに滑稽で、頭へも鉛を飛ばそうかと悩んでいれば、勝手に指が収縮し、桃色のナメクジのような脳髄が飛び散った。砂金を巻き込みながら広がりゆく赤い海に、あなたのことやっぱり好きだったのかななんて思ったりしてみるけれど、でもナメクジは嫌いだし、ナメクジが頭に詰まったあなたも気持ち悪いし、それに、買ったばかりのヘイディースのヒールが汚れちゃったし。

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